アクセシビリティの祭典2024に「アクセシブルなリテールアプリの共創開発と生成AIによる情報アクセシビリティの早期解消に向けて」というテーマで登壇
はじめに
アクセシビリティの祭典は、チームアイコラボが主催するイベントで、2024年は10回目の開催になるそうです。
クラスメソッドとしては、2021年からスポンサーとして応援させていただいています。
クラスメソッドは「アクセシビリティの祭典 2024」をゴールドスポンサーとして応援します
今年は「アクセシビリティの祭典10周年大感謝祭!」がテーマとのことで、スポンサーセッションの登壇者はそれぞれ「現在の取り組みと、10年後のアクセシビリティについて」を話しました。
私は「アクセシブルなリテールアプリの共創開発と生成AIによる情報アクセシビリティの早期解消に向けて」というテーマで登壇させていただきました。
登壇内容
(一部省略があります)
アクセシブルなリテールアプリの共創開発と生成AIによる情報アクセシビリティの早期解消に向けて
クラスメソッドの持田と申します。 「アクセシブルなリテールアプリの共創開発と生成AIによる情報アクセシビリティの早期解消に向けて」という話をさせていただきます。 よろしくお願いします。
自己紹介
自己紹介をさせてください。 持田 徹と申します。
クラスメソッド株式会社のリテールアプリ共創部という新しくできた部署におります。
コーディネーターというロールで仕事をしておりまして、あとでご説明するリテールテック、小売と、ベトナムとのモダン・オフショアという開発を行っていまして、その2つを活用した共創開発、お客様と一緒に開発をしていくというところの事業に携わっています。
2002年ぐらいから、アクセシビリティの問題に関心を持ち、何らかの形で活動を続けています。
アクセシビリティに関する業務や、講演、雑誌連載、書籍執筆等をしてきました。
右側は、2018年の「アクセシビリティの祭典」での登壇の様子を撮影いただいた写真です。とても気に入っていて、会社のSlackのアイコンもこの写真にしているので、いつも、この時の気持ちを持って仕事をしています。
現在の取り組みについて
弊社の現在の取り組みについて、ご紹介させていただきます。
クラスメソッド リテールアプリ共創部とは
クラスメソッド リテールアプリ共創部という部署ですが、「リテール」、小売ですね。
皆さんが普段、買い物されたり飲食されたりする業界に、テクノロジー、IT技術を導入することを「リテールテック」という風に呼んでいます。
この「リテールテック」を活用した部分で、一般の消費者の方、皆さんが普段の生活で使われるようなアプリケーションの開発を、お客様と共に進めるという形です。
受託開発と言うと、発注者・受注者という関係になりますが、弊社では、お客様と1つのチームになって進めることを「共創開発」と呼んでいます。
よいアプリケーション開発するためには、私たちが持つデザイン力や技術力も必要ですが、受注・発注という関係を超えて、お客様のビジネスが、どういう構造になってるのかを、相互に理解する必要があります。
こうした点が、私たちがお客様と共に1つのチームでの開発を進めている背景になります。
私たちが対象とするリテールアプリの例
私たちが対象としている、リテールアプリの例です。
LINEミニアプリ、LINEから呼び出されるアプリケーションをよく作っています。
また、飲食店などのアプリや、スマホから商品の注文や決算ができるモバイル・オーダーアプリですね。
あとは、百貨店様で提供されることが多いデジタル・ポイントカードであったり、ショッピング・モールなどに入っておられるようなアパレル店や生活雑貨店などのスマホアプリなどを主に開発させていただいています。
リテールアプリのアクセシビリティ向上の意義
このようなリテールアプリ、皆さんの生活に密着しているアプリのアクセシビリティを向上する意義についてですが、障害当事者をはじめ、一般消費者の方の生活に身近な存在であるということが、まず挙げられます。
また、従来あまりDXが進んでいなかったリテール分野も、コロナ禍を経て、モバイル・オーダーなどの導入が進んだと思っています。
その意味では、例えば外出が困難な方、会話が困難な方などの、障害当事者の方がいらっしゃっても、スマホアプリがあれば買い物できるという部分が増えたのかなと思っています。
しかし、そのUI部分に、アクセシビリティの問題があることが多いと思っています。
私は、障害者の方が情報共有されるメーリングリストに入っています。そういったコミュニティで、障害当事者の方が、このアプリが使いにくいといった意見表明をされても、その意見がアプリの開発側に反映されるケースは少ないと考えています。
皆様が普段使われるアプリは、その提供元企業で開発されているものは少なく、多くは開発ベンダーに委託して作られているものが多いと考えています。
私たちは、共創開発を通じ、皆さんの生活に密着しているリテールアプリを、1つでも多くアクセシブルにしたいと思って、日々活動しています。
私たちのアプローチ
私たちのアプローチです。
開発が始まった後でアクセシビリティの話をしても、なかなかうまくいかないため、私たちから開発を提案するプリセールスの段階で、アクセシビリティの向上を含めた計画の提案を行なっています。
デジタル庁のウェブアクセシビリティ導入ガイドブックにも記載がありますが、開発工程の中では、デザイン、設計、実装の各フェーズでアクセシビリティの確認や向上を進めます。
最後の総合テストで、全体のアクセシビリティの試験も行なっています。
アクセシビリティは、ビジネスやデザイン、技術的な側面の考慮が必要なため、お客様と共に「ここを、こうしていきましょう」といった課題やその解決策を、お互いに出し合えるような共創関係を築いて進めていく形になっています。
開発期間が長かったり、手続きの関係で、これがアクセシビリティ向上の成果ですといった事例をお見せすることはできないのですが、少しずつ、コツコツと進めていっています。
10年後のアクセシビリティについて
10年後のアクセシビリティについて、少しお話をします。
あれから20年...
「あれから20年...」ということで、綾小路きみまろさんが『あれから40年』という歌を歌っておられますが、
私がアクセシビリティの問題とであったのは、2002年くらいで、ほぼライフワークのように取り組みだしてから、20年以上が経過してしまいました。
今、画面に出してるのは、少し前に話題になった「スラド」という掲示板サイトのスクリーンショットです。
ここに、2003年に、私が関根さんと一緒に神戸ファッションマートでWebアクセシビリティの講演をするにあたって、私自身が宣伝のために掲示板に書き込んだ記事のスクリーンショットを貼っています。
この記事には、講演会を2003年5月31日に開催すると書かれていて、この日からでも20年以上経過している状況になってしまいました。
アクセシビリティの祭典10周年!しかし!
アクセシビリティの祭典が今年で10周年!ということで、まことに おめでたいなと思っています。
しかし、情報アクセシビリティの問題は、そのことで困ってる方にとっては、大きな課題です。
そのため、今後10年といわず、一刻も早く、情報アクセシビリティの問題だけでも解消しないといけないと思っています。
そこで、今後の10年も、情報アクセシビリティの問題が存在することを前提とするより、どうすれば早く解消できるかということを具体的に考えていくのがよいではと思っています。
解決すべき情報アクセシビリティの課題
解決すべき課題としては、Webサイト、Webアプリやネイティブアプリのアクセシビリティ向上や、読書バリアフリーの分野で音訳ボランティアの方の高齢化が進んでいる、マルチメディアDAISY図書のさらなる普及が必要という課題や、災害時の情報取得、物理的な移動、コミュニケーションなどがあると考えます。
解決策は...マルチモーダルLLM?
弊社クラスメソッドは、生成AIのコンサルティングの引き合いを多数いただいておりまして、情報アクセシビリティ課題の解決策も、マルチモーダルのLLMかと考えています。
このスライドの提出締め切りが一週間前だったため、私はOpenAI社のGPT-4oなどを見る前に、このスライドを書いている点だけ、ご容赦ください。
マルチモーダルLLM
マルチモーダルLLMとは、生成AIにおいて、テキストだけではなく、画像や音声も扱えるものです。
画像や音声のみのデータであっても、それをテキスト化して解釈することができるため、人間の感覚器や知性を補完できると考えています。
今、アクセシビリティ向上に使える生成AIの機能
今、アクセシビリティ向上に使える生成AIの機能としては、WebページやPDFの内容を認識してテキスト化する、画像を認識して内容をテキスト化する、テキストへの読み付与、翻訳、要約、平易な文章への変換、長いテキストを読んで質問に答える、HTMLやJavaScriptなどコードの解釈、テキストから画像を生成する、音声の文字起こし、音声合成など、たくさんあると思っています。
例: 生成AIによる高精度な代替テキストの自動生成
例えば、このスライドは厚生労働省の『日本の人口の推移』という、かなり複雑なグラフです。
これを生成AIに入力して、プロンプトと呼ばれる命令を丁寧に書くと、次のような代替テキストが自動生成されます。
“このグラフのタイトルは「日本の人口の推移」です。横軸は年を、縦軸は人口(万人)を表しています。全体として、2020年から2070年にかけて日本の総人口は徐々に減少する傾向にあり、2070年には9,000万人を割り込むと予測されています。一方で、高齢化率は39%に達すると推計されています。年齢階層別に見ると、14歳以下の人口と15~64歳の生産年齢人口は減少を続けるのに対し、65歳以上の高齢者人口は増加の一途をたどっており、日本社会の高齢化が一層進行することがわかります。”
長い文章ですが、読んでいただくと、アクセシビリティの教科書のルールの観点から見ても、80点〜90点を出せるようなレベルになっています。
すでに画像の代替テキストは、生成AIによって機械化できるところまできていると思います。
個人的に予想する10年後の情報アクセシビリティ
個人的に予想する10年後の情報アクセシビリティです。
このようなLLM(生成AI)に、メガネやコンタクトレンズ、ネックレスや腕時計などからアクセスできるのではと思っています。
例えば、視覚に障害がある方には、周囲の視覚的な状況や音声情報などを解釈して、適切な形式で利用者に情報提供するようになると考えます。
先日公開されたOpenAIの動画でも、視覚障害の方がタクシーを呼ぶシーンをサポートする動画がありますが、これはすでに実現しているので、10年と言わず、実現できるのではと思っています。
そのため、現状は代替テキストのない画像や画面部品の視覚的な解釈に対してはメタデータをつけましょうという流れになっていますが、もしかしたらそれが、LLMでできるかもしれないなと思っています。
ということで、ちょっと悲しいお話かもしれないですが、情報アクセシビリティの向上は、爆発的に増える作り手に対して普及・啓蒙していくより、知性を持ったユーザー・エージェントができてくる方が早いかもしれないと思っています。
以上より、もしかしたら10年後には、アクセシビリティの作り手への普及・啓蒙というフェーズは終わっているのではないかと思っています。
最後に
私たちは、アクセシブルなリテールアプリを増やすために、お客様と一緒に開発を進めていきます。
そして、10年以内に情報アクセシビリティの問題が解消できるような未来を目指して、技術を磨いていこうと思っています。
以上です。 ありがとうございました!